代表的なパターン

今世紀に入ってにわかに注目されるようになったフランスでの精神分析認知行動療法の対決は、アメリカでの古い抗争が四○年のタイムラグを経てようやくラカンの国に辿り着いたことを意味するにすぎないと評する人々もいる。ちなみに、アメリカの行動療法にかぎらず、行動療法的なものが精神分析を槍玉に挙げる例は他にもある。精神分析家がまだひとりも生まれていなかった一九二○年代の日本でそれを行ったのは、森田療法の開祖・森田正馬である。認知行動療法のもうひとつの系譜は、ペンシルヴェニア大学病院の精神科医で精神分析家でもあったアーロン・ベックが一九七○年代にはじめた認知療法だ。諺病の精神分析治療に行き詰まりを感じていたベックは、患者が示す認知の歪み、すなわち思考回路の悪循環に注目した。ベックによれば、諺病は自己についての認知、環境についての認知、および未来についての認知という三つの思考領域に生じる歪みに起因する。たとえば、自分はダメだと考える、世界や他人に期待してもムダだと感じる、将来に望みはないと思い込む、というのが、これらの認知の歪みの代表的なパターンだ。